ADHDの症状を抑制するための薬には、以下の4種類が存在します。
- コンサータ
- ストラテラ
(アトモキセチン) - インチュニブ
- ビバンセ
これらの薬は、単独で使用されることもあれば、併用されることもあります。
今回はコンサータおよびストラテラについて、特徴・用法用量・注意点・副作用などについて、詳細にまとめてみました。
1.コンサータ
成分名:メチルフェニデート徐放錠
特徴
- 多くの国で、ADHDの第一選択薬として推奨されている薬であり、ADHDの不注意/多動性/衝動性を改善する効果が一番明確とされている薬です。
- 脳内のノルアドレナリン、ドパミンを増加させ、側坐核の報酬系および前頭前野の実行機能を活性化するとされていますが、詳細についてはわかっていないことも多いです。
(報酬系:意欲に関わる機能。実行系:思考や行動の制御機能。詳しくは別記事「ADHDの脳科学と薬」を参照して下さい。) - 成分であるメチルフェニデートは、かつて依存や乱用が問題となった薬ですが、コンサータはメチルフェニデートが少しずつ溶け出し、穏やかな作用が長時間続くように設計された徐放錠であり、実際には依存性は軽度で、乱用は起こりにくい薬とされています。
- 本人もしくは家族に運動性チック/Tourette症候群がある場合(あるいは過去にあった場合)は、症状の悪化/誘発の可能性があるため、使用できません。
- 過度の不安、緊張、興奮性のある方や重症うつ病の患者さんは使用できません。
- 甲状腺機能亢進症、不整頻拍、狭心症、褐色細胞腫、閉塞隅角緑内障のある患者さんも使用できません。
用法用量・注意点
- 1日1回朝に服用。
(食欲不振の副作用が見られる場合には、朝食後の服用が推奨されています。) - 開始用量:18mg
- 18歳未満での維持用量:18mg~45mg(最大用量54mg)
- 18歳以上での維持用量:18mg~72mg
(増量時は1週間以上の間隔をあける) - 効果は服用後およそ1.5時間程度で発現し、12時間持続します。
- 飲み忘れた場合、できるだけ早く飲むこと。しかし、午後に飲むと眠れなくなる恐れがあるため、午後は飲まないでください。
- 作用に対する耐性形成および食欲低下、体重減少の副作用を避けるため、週末や長期休暇中に休薬日を設けることが推奨されています。
- 離脱症状が出ることはほとんどありませんが、薬を中止する場合は、症状を観察しながら、徐々に休薬日を増やしていく方法が推奨されています。
(医師の指示のもと休薬。自己判断で減量・中止しないでください。) - 便の中にこの薬の外側の殻が排泄されますが、正常な事であり心配することはありません。
- めまい、眠気などが起こることがありますので、自動車の運転や機械の操作は避けてください。
- 心血管系に影響を与える可能性があるため、血圧・脈拍の定期的な測定が必要です。
併用禁忌、併用注意
◆併用禁忌
(併用してはいけない薬)
- エフピー(セレギリン)
◇併用注意
(併用に少し注意が必要な薬)
- 昇圧剤
- クマリン系抗凝血剤(ワルファリン)
- 抗けんれん薬(フェノバルビタールなど)
- 三環系抗うつ剤(イミプラミンなど)
- SSRI系抗うつ剤(フルボキサミンなど)
- ストラテラ(アトモキセチン)
- クロニジン
- アルコール
- スペースの都合上、全ては記載していません。これらの薬に限らず、飲んでいる薬はすべて医師及び薬剤師にお伝え下さい。
- ストラテラも併用注意となっていますが、実際にはコンサータとストラテラは併用で使われることも多いです。
コンサータの長期服用
- 1年間あるいは2年間の長期研究で、コンサータの効果の持続性および安全性は問題ないことが確認されており、長期で重篤な副作用が発生することは報告されていません。
- しかし、まだ長期研究は少ないのが現状です。
- 実際には2年以上服用している人もいる一方で、長期の服用で作用が徐々に減弱し、効果を実感しにくくなる方もいらっしゃるようです。
- 発達の程度、加齢、環境の変化に応じて問題となる症状が変化する場合があるため、少なくとも年に1回程度、休薬を行い、効果について再評価する必要があります。
コンサータの主な副作用
【小児】
(カッコ内は臨床試験で発現した割合)
- 食欲減退(42.1%)
- 不眠症(18.5%)
- 体重減少(12.0%)
- 頭痛(8.3%)
- 腹痛(5.6%)
- 悪心(=吐き気)(5.6%)
- チック(5.1%)
【成人】
(カッコ内は臨床試験で発現した割合)
- 食欲減退(39.7%)
- 動悸(21.7%)
- 体重減少(19.9%)
- 不眠症(18.0%)
- 悪心(=吐き気)(16.5%)
- 口渇(14.7%)
- 頭痛(10.7%)
- 食欲減退、吐き気、腹痛、頭痛は、服用初期に多く、服用を継続することで徐々に耐性(体の慣れ)ができてくるとされています(個人差はあります)。
- 強い副作用が出た時は、すぐに受診してください。特に、以下のような重篤な副作用が発現した場合は(発現の可能性は極めて低いですが)、使用をやめて、すぐに医師の診断を受けてください。
- 剥脱性皮膚炎:発熱、広範囲の皮膚潮紅、強いかゆみ
- 狭心症:冷汗、胸の圧迫感・狭さく感・痛み
- 悪性症候群:強度の筋肉のこわばり、急激な発熱、飲み込みにくさ
- 脳血管障害:手足の片側の麻痺、言語障害、一時的な意識障害
- 肝機能障害:全身倦怠感、食欲不振、皮膚や結膜が黄色くなる
◎コンサータの規制
- 管理委員会に登録した処方医のみが処方でき、管理委員会に登録した薬局のみが調剤できる薬です。そのため、すべての精神科医が処方できるわけではありません。
- 2019年12月に流通管理システムがさらに厳格化、患者登録も必要となりました。
- しかし、2020年12月末までは経過措置期間として、今までコンサータを服用していた患者さんに限り、今まで通り患者登録なしでも処方してもらうことができます。
- この規制については別記事「コンサータの新管理システム」でも簡潔にまとめています。
2.ストラテラ
(成分名:アトモキセチン)
特徴
- アメリカやイギリスでは、コンサータと並んで第一選択薬となっている薬で、ADHDの不注意/多動性/衝動性を改善させますが、コンサータに比べると作用がやや弱いとされています。
- 脳内のノルアドレナリンを増加させ、主に前頭前野の実行機能(=思考や行動の制御機能)を活性化させると言われていますが、詳細についてはわかっていないことも多いです。(詳しくは別記事「ADHDの脳科学と薬」を参照して下さい。)
- 依存性はありません。
- ADHDの治療薬の中で唯一ジェネリック医薬品(アトモキセチン)が存在するため、薬の値段が比較的安く抑えられます。
- カプセル、錠剤、液剤の3つの剤形が存在します。
- 服用開始から効果発現までは数週間かかるとされています(個人差あり)。
- 重篤な心血管障害、褐色細胞腫、閉塞隅角緑内障の患者さんは使用できません。
用法用量・注意点
- 1日1回もしくは1日2回に分けて服用。
(18歳未満では原則1日2回に分けて服用。) - 1日2回に分けて服用したほうが食欲減退、吐き気の副作用が出にくいことが報告されています。2錠以上服用されている方で、食欲減退、吐き気の副作用が出た人は、医師に相談の上、1日2回に分けて服用したほうが良いでしょう。
- 18歳未満での用量
開始用量:1日0.5mg/kg
維持用量:1日1.2~1.8mg/kg
(増量時は一週間以上の間隔をあける) - 18歳以上での用量
開始用量:1日40mg
維持用量:1日80~120mg
(増量時は一週間以上の間隔をあける) - 「中等度の肝機能障害がある場合は、用量を通常の50%に減量すること。重度の肝機能障害を有する患者においては、用量を通常の25%に減量すること」となっており、肝機能障害のある方は注意が必要です。
- 飲み忘れた場合は、気がついたときにできるだけ早く1回分を飲んでください。ただし、次の服用時間が近い場合(目安としては5~6時間程度)は飲まずに、次の通常の服用時間から1回分を飲んでください。2回分を一度に飲んではいけません。
- 依存性はない薬であるため、減量せずにいきなり中止しても、離脱症状は出ないですが、中止時は念のために徐々に減量してから中止することが推奨されています。
(医師の指示のもと休薬する。自己判断で減量・中止しないで下さい。) - めまい、眠気などが起こることがありますので、自動車の運転や機械の操作は避けてください。
- 心血管系に影響を与える可能性があるため、血圧・脈拍の定期的な測定が必要です。
併用禁忌、併用注意
◆併用禁忌
(併用してはいけない薬)
- エフピー(セレギリン塩酸塩)
- アジレクト(ラサギリンメシル酸塩)
◇併用注意
(併用に少し注意が必要な薬)
- β受容体刺激薬(サルブタモールなど)
- 昇圧剤
- パロキセチン
- 三環系抗うつ剤(イミプラミンなど)
- SSRI系抗うつ剤(フルボキサミンなど)
- スペースの都合上、全ては記載していません。これらの薬に限らず、飲んでいる薬はすべて医師及び薬剤師にお伝え下さい。
ストラテラの長期服用
- 2年間あるいは4年間の長期研究で、ストラテラの効果の持続性および安全性は問題ないことが確認されており、長期で重篤な副作用が発生することは報告されていません。
- しかし、やはり長期での研究はまだ少ないのが現状です。
- 必要に応じて休薬を行い、効果について再評価します。
ストラテラの主な副作用
【小児】
(カッコ内は臨床試験で発現した割合)
- 頭痛(22.3%)
- 食欲減退(18.3%)
- 傾眠(14.0%)
- 腹痛(12.2%)
- 悪心(=吐き気)(9.7%)
【成人】
(カッコ内は臨床試験で発現した割合)
- 悪心(=吐き気)(46.9%)
- 食欲減退(20.9%)
- 傾眠(16.6%)
- 口渇(13.8%)
- 頭痛(10.5%)
- 動悸(8.2%)
- 食欲減退、吐き気、腹痛、頭痛は、服用初期に多く、服用を継続することで徐々に耐性ができてくるとされています(個人差はあります)。
- 強い副作用が出た時は、すぐに受診してください。特に、以下のような重篤な副作用が発現した場合は(発現の可能性は極めて低いですが)、使用をやめて、すぐに医師の診断を受けてください。
- 肝機能障害:全身倦怠感、食欲不振、皮膚や結膜が黄色くなる
- アナフィラキシー:血管神経性浮腫(目や口唇周囲などのはれ)、蕁麻疹、呼吸困難
3.ADHDの治療薬のまとめ
ADHDの治療薬の主な特徴を表にまとめました。
4.最後に
- 残念ながら服薬でADHDが完治するわけではありません。
- しかしながら、小児のADHDの場合、成長につれて症状が問題のない程度までに改善する可能性があります。また、大人のADHDであっても、環境の変化や周囲の理解により、ADHDの症状が大きな問題とならなくなることがあります。
- いずれの薬も、中止するのがそれほど難しい薬ではありませんし、必ずしも一生飲み続けなければならないわけではありません。
『注意欠如・多動症ーADHDガイドラインの診断・治療ガイドライン』の言葉を借りれば、「薬はがんばりやすくしてもらえる補助」という考え方が大切です。
- 服薬で自らを補助しつつ、なるべく服薬なしでも社会生活ができるように工夫し、自分の凸凹に合った環境を見つけていく、あるいは環境を改善していくことも重要だと思います。
- また、前述のADHDガイドラインには「薬物療法による改善は、本人のがんばりに結びつけましょう。」とも書かれています。これは小児ADHDの親御さんに向けたメッセージですが、大人のADHDにも当てはまるでしょう。薬物療法を開始して、前よりできることが増えてきたら、それは薬だけの効果ではなく、本人の努力によるところも大きいはずです。薬を褒めるのではなく、自分自身を褒めてあげましょう。
この記事の作成にあたって、各薬剤の添付文書、IF、くすりのしおり(製薬会社が作成している一般の方向けの薬の情報)を参考にさせていただきました。
「くすりのしおり」のリンクを以下に記載します。
- コンサータ:http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka.cgi?n=39069
- ストラテラ:http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka.cgi?n=15589
- インチュニブ:http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka_plain.cgi?n=43739
その他の参考文献一覧
- ADHDの診断・治療指針に関する研究会・齋藤万比古(2016)『注意欠如・多動症ーADHDガイドラインの診断・治療ガイドライン 第4版』じほう
- AACAP (2013)“ADHD Parents Medication Guide” (最終閲覧日:2019年12月12日) https://www.aacap.org/App_Themes/AACAP/docs/resource_centers/resources/med_guides/adhd_parents_medication_guide_english.pdf
- ヤンセンファーマ株式会社(2007)『コンサータ錠18mg,同27mgCTD 第2部 CTDの概要2.5臨床に関する概括評価』
- 厚生労働省(2019)「メチルフェニデート塩酸塩製剤(コンサータ錠18mg、同錠27mg及び同錠36mg)の使用にあたっての留意事項について」
- Newcorn JH, et al.(2008)“Atomoxetine and Osmotically Released Methylphenidate for the Treatment of Attention Deficit Hyperactivity Disorder: Acute Comparison and Differential Response” Am J Psychiatry, 165(6):721-730
- Timothy Wilens et al.(2005)ADHD Treatment With Once-Daily OROS Methylphenidate: Final Results From a Long-Term Open-Label Study,Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry,44(10):1015-1023
- Wernicke JF et al. (2004) Journal of Clinical Psychopharmacology, 24 (1):30-35
- lillymedical.jp “製品Q&A”(最終閲覧日:2019年12月12日) https://www.lillymedical.jp/jp/ja/answers/48383
- Mats Fredriksen et al.(2013)“Long-term efficacy and safety of treatment with stimulants and atomoxetine in adult ADHD: A review of controlled and naturalistic studies” European Neuropsychopharmacology,23 (6):508-527
- David Michelson et al. (2001) “Atomoxetine in the Treatment of Children and Adolescents With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Randomized, Placebo-Controlled, Dose-Response Study” Pediatrics November, 108 (5): e83
- 深井良祐 “役に立つ薬の情報~専門薬学” (最終閲覧日:2019/12/26)https://kusuri-jouhou.com/medi/sonota/guanfacine.html
- Sallee FR et al. (2009) “Long-term safety and efficacy of guanfacine extended release in children and adolescents with attention-deficit/hyperactivity disorder.” J Child Adolesc Psychopharmacol, 19(3):215–226.
- 松吉大輔 (2012) “脳科学辞典 実行機能” (最終閲覧日:2019/12/26)
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E6%A9%9F%E8%83%BD - CHAPPELL, et al. (1995). Guanfacine Treatment of Comorbid Attention-Deficit Hyperactivity Disorder and Tourette’s Syndrome: Preliminary Clinical Experience. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(9):1140-1146