気分をポジティブにしてくれるなどのキャッチコピーとともにドラッグストアなどで販売されているセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)。
注意しなければならないことが多いサプリメントですが、注意事項を守り、慎重に使用すれば、有用なサプリメントでもあります。
では、セントジョーンズワートにどういった効果があり、どういった点に注意が必要なのか、まとめてみました。
また、このサイトは発達障害の方への医療を中心とした情報サイトなので、ADHDなどの発達障害に関連する内容についても書いていますが、発達障害ではない方も参考にしていただける内容になっていると思います。
セントジョーンズワートの効果
軽度のうつ病には効果がある可能性
セントジョーンズワートの効果で、一番研究されているのがうつ病に対する効果です。
では実際に効果があるのでしょうか?
結論から述べると、軽度から中等度のうつ病には効果がある可能性が高いと考えられます。
- 例えば、2016年に実施されたシステマティック・レビューでは、うつ病患者6993人を対象とした35件の研究について解析を行い、軽度および中等度のうつ病に対するセントジョーンズワートの単独療法は、うつ症状の改善においてプラセボよりも優れており、抗うつ薬との有意差はなかったと報告しています。一方で、重度のうつ病に関しては、研究が少なく結果も一致していないと述べています。(参考文献1より)
- 「システマティックレビュー」というのは「質の高い複数の臨床研究を,複数の専門家や研究者が作成者となって,一定の基準と一定の方法に基づいてとりまとめた総説のこと」です。(http://jspt.japanpt.or.jp/ebpt_glossary/systematic-review.htmlより引用)
- 「プラセボ」とは偽薬のことで、何も効果のない薬のことです。プラセボを(プラセボと知らせずに)飲んだグループとセントジョーンズワートを飲んだグループを比較することで、思い込みによるプラシーボ効果を排除するわけです。
他にもセントジョーンズワートが軽度および中等度のうつ病に効果があると結果が出た研究は複数あります(補足を参照)。ただし、効果がなかったとする研究も一部存在し、まだその効果について断言できるほどの科学的根拠はありません。
また、うつ病が疑われる場合は、サプリメントよりもまず病院を受診すべきです。
発達障害にはおそらく効果はない
ADHDなど発達障害に対するセントジョーンズワートの効果を調べた研究も少数ありますが、今の所良い結果は得られていません。
なので、発達障害に対する効果は、セントジョーンズワートには期待できないでしょう。
セントジョーンズワートの作用と注意点
セントジョーンズワートには、主に以下の2つの作用があります。
- 脳内のセロトニンの量を増やす。
- 体内の代謝酵素(主にCYP3A4、CYP1A2)およびP糖タンパク質を増やす。
ⅱについて補足説明をします。
- 人間の体には、異物や毒を体内に入れてしまったときに、それに対抗するための機能がいくつも備わっています。その一つがCYPと呼ばれる代謝酵素なのです。
- CYPは体の中に入った異物を、基本的には毒性のないものに変化させてくれる酵素です。CYPにはいくつか種類があり、CYP3A4やCYP1A2、CYP2C19、CYP2D6などいくつか種類があります。
- セントジョーンズワートはこの中で、CYP3A4とCYP1A2を主に増加させます。
- またP糖タンパク質は、小腸や脳などに発現して、体内や脳内に異物が入らないようにしてくれます。
これだけ聞くと、一見良い効果ばかりのように思えますが、実際にはⅰもⅱも薬物治療時に問題になることが多いのです。
抗うつ剤との相互作用
・セロトニンが増えることによる抗うつ剤との相互作用
「セロトニンって幸せホルモンなんだから、増えたほうが良いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かにうつ病の方では脳内のセロトニンが減少しているため、抗うつ剤によりセロトニンの量を増やして治療する必要があります。
しかし重要なのはそのバランスで、セロトニンが増えすぎても、副作用が出るのです。
・セロトニン症候群について
抗うつ剤にはセロトニン症候群という副作用があり、「不安、興奮、せん妄、頻脈、高血圧、高体温、発汗、嘔吐、下痢、振戦、筋緊張」などの症状が起こる場合があります。
セントジョーンズワートだけを飲んでこのような症状が出ることはまずありませんし、抗うつ剤も適切な量であれば、セロトニン症候群が起こることはまれです。
しかし、抗うつ剤とセントジョーンズワートの両方を飲むことで、セロトニンの増えすぎにより、このような症状を起こす可能性があるのです。
代謝酵素の増加による薬との相互作用
先ほど説明したように、基本的にはCYPは異物を解毒してくれる代謝酵素です。
しかし、人間の体にしてみれば、薬も異物の一種です。そのため、CYPは薬の代謝にも関わってきます。
例えば、ワルファリン。
ワルファリンは体の血液をサラサラにしてくれることで、脳梗塞などを防いでくれる薬ですが、ワルファリンはCYP3A4によって代謝される薬です。
そのためセントジョーンズワートを飲んで、CYP3A4が増えてしまうと、ワルファリンが代謝されやすくなってしまい、効果が減弱してしまうのです。
他にもセントジョーンズワートで効果が減弱されてしまう薬はたくさんあります。主なものを下表に載せておきます。
これらの薬を飲んでいる方は、セントジョーンズワートは飲まないで下さい。
ただし、すでにセントジョーンズワートを飲んでいる方は、急に飲むのを止めると、効果の減弱がなくなることで副作用が起きる可能性もありますので、医師及び薬剤師に必ず相談してください。
また、これら以外にも相互作用を起こす可能性のある薬は存在します。
例えば、ADHD治療薬のインチュニブもCYP3A4およびCYP3A5によって代謝される薬になります。今の所、インチュニブとセントジョーンズワートの相互作用は報告されておりませんが、研究がされていないだけで、セントジョーンズワートによってインチュニブの効果が減弱してしまう可能性は高いです。
そのため、抗うつ剤も飲んでおらず、自分の服用薬が上の表に載っていなくても、セントジョーンズワートを飲んでいる方は、医師及び薬剤師にその旨を伝えて下さい。
また、妊婦や子供に対する研究は少ないため、妊婦もしくは授乳中の方、子供の場合は特に医師及び薬剤師に相談することが大切です。
まとめ
前述の通り、うつ病の可能性がある場合、まず医師の診療を受けるべきです。
しかし、以下のような方にはセントジョーンズワートは効果があるかもしれません。
- うつ病ではないが、「気分がすっきりしない」「落ち込みやすい」人。
- 他に薬を飲んでいない方。もしくは薬を飲んでいるが、医師あるいは薬剤師に相談した上で、セントジョーンズワートを飲んでも良いとされた方。
補足
- Barak G et al.が2000年に実施したシステマティック・レビューでは、計300名以上の4つの研究について解析を行いました。そして、軽度から中程度のうつ病の治療において、セントジョーンズワートがプラセボよりも安全で、おそらく効果的であることを報告しています。しかし、重度のうつ病での使用と他の抗うつ薬との比較における有効性を評価するには、より多くのデータが必要であることを述べています。
- Linde K et al.が2008年に実施したシステマティック・レビューでは、計5000名以上のうつ病患者(多くが軽度から中程度の患者)を対象とした29件の研究について解析を行いました。そして、セントジョーンズワートは標準的な抗うつ薬と同程度の効果を有し、標準的な抗うつ薬よりも副作用が少なかったと報告しています。ただしドイツ語圏で実施された研究に比べて、他国で実施された研究ではその効果が低かったため、ドイツ語圏で実施された小規模な研究に不備があった可能性も指摘しています。
- Apaydin, E. A., Maher, A. R., Shanman, R., Booth, M. S., Miles, J. N. V., Sorbero, M. E., & Hempel, S. (2016). A systematic review of St. John’s wort for major depressive disorder. Systematic Reviews, 5(1). https://doi.org/10.1186/s13643-016-0325-2
- Gaster, B., & Holroyd, J. (2000). St John’s wort for depression: A systematic review. In Archives of Internal Medicine. https://doi.org/10.1001/archinte.160.2.152
- Linde K, Berner MM, Kriston L (2008). “St John’s wort for major depression”. Cochrane Database Syst. Rev. 4: CD000448. PMID 18843608.