利尿薬ブメタニドがASDに有効?
論文の要点をまとめました。

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 ASDに関する薬として、エビリファイ、リスパダール、オーラップの3つの薬があります。

 いずれも小児ASDに伴う「易刺激性 (かんしゃく、攻撃性、自傷行為など)」を抑制するための薬であり、ASDの中核症状に明確な効果のある薬は現状ありません。
 (また、オーラップはその心臓への副作用の強さのためか、2021年に販売中止が決定しています。)

 しかし、利尿薬であるブメタニドが小児のASD、自閉症を改善するという研究がいくつか報告されていたので、その要点をピックアップしてみました。

  1. 非医療関係者にも見やすいよう、なるべく平易な表現を用いましたが、それでも記事の性質上、難しい部分があるのはご容赦下さい。

 

・E Lemonnier (2012)の研究の要点

  • 3ヶ月間ブメタニドで治療した小児はそうでない小児に比べて、CARSスコアが有意に減少した。
  1. CARSとは、小児自閉症評価尺度のことで、「人との関係」、「身体の使い方」など15項目について、行動の異常性の程度を1点~4点(0.5点間隔)で評価するものです。
  2. CARSスコアは一般的に、その合計得点が29.5点以下で「自閉症ではない」、30~36.5で「軽度自閉症」、37~60点で「重度自閉症」と判定されます。
  3. 「有意に」というのは「統計的に意味がある」ということです。「有意ではない」ということは誤差の範囲内であることを意味します。

 

もう少しだけ詳しく方法と結果を書くと…
  • 3~11歳の自閉症およびアスペルガー症候群の小児60人をブメタニドで治療を受けるグループと治療を受けないグループに分け、3ヶ月間の追跡研究を行い、グループ間でCARSスコアの減少の比較を行った。
  • 3ヶ月間で、ブメタニドの治療を行ったグループでは、CARSスコアが、平均5.6減少(平均41.6から36に減少)し、ブメタニドの治療を受けなかったグループ(平均41.1から39.3で1.8の減少)に比べ、その減少の差が有意であった。

 

・Lingi Zhang et al.(2020)の研究の要点

  • 3ヶ月間ブメタニドで治療した小児はそうでない小児に比べて、CARS(小児自閉症評価尺度)スコアが有意に低かった。
  • この結果は、ブメタニドによる脳内のGABA低下作用が関係している可能性がある。
もう少しだけ詳しく方法と結果を書くと…
  • 3~6歳のASDの小児83人をブメタニドで治療を受けるグループと治療を受けないグループに分け、3ヶ月間の追跡研究を行い、グループ間でCARSスコアの比較を行った。
  • 3ヶ月後のCARSスコアは、ブメタニドの治療を行ったグループで、34.51(治療開始時前は37.40)、治療を受けなかったグループで37.27(治療開始時前は38.15)で、有意な差があった。
  • また、3点(中度の異常を示す行動)の項目も有意に減少した。
  • この結果は脳の島皮質という部位と視覚野におけるGABA/グルタミン酸の比の低下と相関していた。
  • もともと自閉症のマウスモデルでは、皮質及び線条体のGABA/グルタミン酸の比が増加していることが報告されており、ブメタニドによるGABA/グルタミン酸の比を低下させる作用がASDの症状改善をもたらした可能性がある。

・これらの研究に対する感想と展望

  • どちらも3ヶ月間の短期間での研究結果であり、研究対象の人数も多いとは言えませんので、今後のさらなる大規模な研究の結果が待たれます。
  • Lingi Zhang et al.(2020)の研究では、脳皮質におけるGABA濃度がASDでは高いことが示唆されていますが、ASDとGABAの関係はまだ明確にはなっていません。もしASDとGABAの関係が明らかになれば、薬の開発も進む可能性があります。
  • ブメタニドは、もともとは主に浮腫に使われる薬ですが、副作用が比較的少ない安全な薬なので、その点でも今後の研究に期待したいです。
てんかんの抑制やダウン症の認知機能改善効果の可能性も
  • ASDとGABAの関係性については、まだ不明確ですが、ブメタニドがNKCC1という輸送体の阻害を通して、脳内のGABAの働きを調節する作用を持つということはある程度明らかになっています。
  • その作用がてんかんの抑制やダウン症の認知機能改善に有効である可能性を示唆する研究もあり、この点でもこれからの研究に注目していきたいところです。

 

  1. Lemonnier, E., Degrez, C., Phelep, M., Tyzio, R., Josse, F., Grandgeorge, M., Hadjikhani, N., & Ben-Ari, Y. (2012). A randomised controlled trial of bumetanide in the treatment of autism in children. Translational Psychiatry, 2(12), e202–e202. https://doi.org/10.1038/tp.2012.124
  2. Zhang, L., Huang, C.-C., Dai, Y., Luo, Q., Ji, Y., Wang, K., Deng, S., Yu, J., Xu, M., Du, X., Tang, Y., Shen, C., Feng, J., Sahakian, B. J., Lin, C.-P., & Li, F. (2020). Symptom improvement in children with autism spectrum disorder following bumetanide administration is associated with decreased GABA/glutamate ratios. Translational Psychiatry, 10(1), 9. https://doi.org/10.1038/s41398-020-0692-2
  3. Deidda, G., Parrini, M., Naskar, S., Bozarth, I. F., Contestabile, A., & Cancedda, L. (2015). Reversing excitatory GABA A R signaling restores synaptic plasticity and memory in a mouse model of Down syndrome. Nature Medicine, 21(4), 318–326. https://doi.org/10.1038/nm.3827
  4. Löscher, W., Puskarjov, M., & Kaila, K. (2013). Cation-chloride cotransporters NKCC1 and KCC2 as potential targets for novel antiepileptic and antiepileptogenic treatments. In Neuropharmacology (Vol. 69, pp. 62–74). Pergamon. https://doi.org/10.1016/j.neuropharm.2012.05.045

 

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