ADHDの脳科学と薬。
実行機能、報酬系。

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  1. この記事は以前投稿した記事『ADHDの脳科学と薬』の表示を改善した版です。内容はほぼ同じです。

 ADHDは発達障害の1つであり、遺伝的な要因による脳の発達の偏りが主な原因とされていますが、わかっていないことが多いのが現状です。

 しかしながら、ADHD症状を引き起こす脳の要因について、少しずつ近年の研究で明らかになってきている部分もあります。

 ADHDの脳科学研究で特に重要視されているのが「実行機能の障害」および「報酬系の障害」の2つです。

 今回はこの2つについて、そして薬との関係について説明をしていきたいと思います。

 

  1. 2020年1月時点での内容です。今後の研究次第では、記載内容が変更される可能性があります。
  2. 全てのADHDの人に当てはまる内容とは限りません。
  3. わかりやすさを重視して、複雑な部分は省略して記述しております。  

 

・神経伝達物質について

 まず、本題に入る前に神経伝達物質について簡単に説明したいと思います。

 脳の中では、膨大な数の神経が電気信号と神経伝達物質によってやり取りをしています。神経伝達物質というのは、例えば、アセチルコリン、ノルアドレナリンドパミンセロトニンなどですね。

 これらの物質は神経から放出され、別の神経の受容体に受け取られることで、神経間の情報をやりとりしているわけです。
 (同じ神経伝達物質でも、受容体にはいくつか種類があり、受容体によって作用は異なります。)

 一つ例を上げると、アセチルコリンはリラックスしてる時に放出される事が多い神経伝達物質で、副交感神経を活性化させます。胃腸の運動を活性化させ、唾液の分泌を促します。
 このように神経伝達物質が適切な時に適切な量放出されることで、人間は普段の日常生活を送っているわけです。

 もしこの神経伝達物質が多すぎたり少なすぎたりすると、日常生活に支障をきたし、場合によっては疾患や障害に繋がります。

 例)

  • うつ病は脳内のセロトニン不足が要因の一つとして考えられている。
  • 向精神薬の副作用で口渇が起こるのは、薬がアセチルコリンの受容体を阻害してしまい、唾液の分泌量が減るため。  

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①実行機能の障害と薬

・ADHD症状と実行機能 

 では、脳の何が原因で、ADHD症状は起こるのでしょうか?

 それを紐解く鍵の一つとして、以下のことが研究で報告されています。

  • ADHD症状のある人の脳は、ADHD症状のない人の脳と比較して、前頭皮質-線条体の神経回路の活性が低下している。
  • また、実行機能に関わる前頭前野の容積が小さく、前頭皮質が薄い。

 前頭前野の前頭皮質という部位から線条体へ繋がる神経回路は【実行機能】というものに大きく関わってきています。
 【実行機能】とは複雑な課題の遂行に際し、思考や行動を制御する認知制御機能のことですが、具体的には以下のような行動に関係します。

①優先順位を付ける。
②計画を立て、それに従って行動する。
③一時的な記憶を保持しながら他の作業をする。(ワーキングメモリー)
④感情を適度に調整する。
⑤注意を適切に切り替え、持続させる。
⑥円滑なコミュニケーションを取る。

図1 実行機能と報酬系

 ADHD症状のある人の場合、この前頭皮質-線条体の神経回路の活性低下により、この実行機能が上手く機能しないわけですね。

 そして、この前頭皮質-線条体の神経回路に大きな役割を果たしている神経伝達物質がノルアドレナリンドパミンなのです。そして、ノルアドレナリンの受容体のうち、特にα2A受容体の活性低下がADHD症状に関わっているのではないかとする仮説もあります。

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・コンサータとストラテラの作用

 神経には、放出された神経伝達物質を回収(再取込み)して、神経伝達を調節する機構(トランスポーター)が存在します。
 〈下図2を参照〉

 このトランスポーターを阻害することによって、ノルアドレナリンとドパミンの量を増やすのが、コンサータストラテラ(アトモキセチン)になります。
 〈下図3を参照〉

図2 神経伝達物質とその再取込み

 

 

図3 コンサータ、ストラテラの作用

 

 コンサータはドパミンとノルアドレナリンの両方のトランスポーターに結合しますが、特にドパミンのトランスポーターへの結合が強いです。
 ストラテラ(アトモキセチン)は主にノルアドレナリンのトランスポーターに結合します。
 これらの作用によって、コンサータ、ストラテラは実行機能を改善すると考えられています。

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・インチュニブの作用

 一方、α2A受容体を直接刺激するのが、インチュニブになります。〈下図3を参照〉

図3 インチュニブの作用

 この作用によって、インチュニブは実行機能を改善すると考えられています。

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 ②報酬系の障害

 ADHDの症状の原因として以下のことについても報告されています。

  • ADHD症状のある人の脳は、ADHD症状のない人の脳と比較して、報酬系の活性が低下している。
  • 報酬系に関わる側坐核の容積が小さい。

 報酬系】とは、満足感、幸福感を得る脳の機能で、主に脳の側坐核という部位が関わっています。
 人間は何かを成し遂げたときなどにこの【報酬系】が働き、達成感を得るわけです。この報酬系は以下のような役割も果たしています。

  • 達成感を得ようと、何かに対してやる気(意欲)が起こる。
  • 何かに成功した時に報酬系が働くことで、同じことを繰り返そうと「学習」ができる。

 また、ADHDに限らず、行動と報酬までの時間が長くなると学習の効率は下がることがわかっていますが、特にADHDのある人では報酬までの時間が長い場合(遅延報酬)の報酬系の活性が低いことが仮説として考えられています。

 そのため、長期的な報酬を前提とした行動が取れず、早急に報酬系を活性化させようと衝動的な行動をしてしまいます。あるいは他の刺激にすぐに反応してしまい、多動性不注意が現れます。
 また、自分の興味のある分野では報酬系がよく働き、集中できますが、興味のない分野では報酬系の働きが弱く集中が続かないということにもなります。
 依存症のメカニズムにもこの報酬系が関わっていると言われます。

 この報酬系に関わる主な神経伝達物質はドパミンです。

 コンサータはドパミンを回収するトランスポーターを阻害するため、この報酬系に関わる側坐核のドパミン濃度も上昇させ、報酬系を活性化させます。
 (逆に、この報酬系を活性化させる効果があるため、コンサータは厳格な管理が必要なわけですが、実際にはコンサータの構造上、過度の幸福感は起こりにくいことは別記事でも述べました。)

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・今後の展望(個人的な意見も含め)

 現在のところ、明確にADHDを診断できる検査はありません。
 しかし、ADHDについての脳科学がさらに進めば、脳画像による診断が可能になるかもしれません。
 そして、脳科学の進歩によって、より優れた新薬も開発されるかもしれませんし、より的確な薬の選択ができるようになるかもしれません。

 ADHDを含め、発達障害は「見えない障害」とされていますが、それが「見ることもできる障害」に変われば、発達障害に対する理解もさらに進むのではないでしょうか。

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  1. ADHDの診断・治療指針に関する研究会・齋藤万比古(2016)『注意欠如・多動症ーADHDガイドラインの診断・治療ガイドライン 第4版』じほう
  2. Yagishita, S., Hayashi-Takagi, A., Ellis-Davies, G. C. R., Urakubo, H., Ishii, S., & Kasai, H. (2014). A critical time window for dopamine actions on the structural plasticity of dendritic spines. Science, 345(6204), 1616–1620. https://doi.org/10.1126/science.1255514
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